補聴器相談医制度を活用しましょう

 高齢社会の進行とともに、聞こえが悪くて困っている方が、年々多くなっています。「聞こえること」が、生活の質を保つ上で大切なのは言うまでもありません。最近では、難聴と認知症の関係も注目されるようになっており、必要と判断されたならば、認知症予防のためにも早めに正しく補聴器をつけることが勧められます。
 補聴器は、法律(薬機法)上では管理医療機器クラスⅡに分類される医療機器です。にもかかわらず、実際には販売上問題があったり、使用が不適切だったりすることも少なくありません。

具体例を挙げてみます。

<事例1> 

聞こえが悪いため、補聴器店で耳かけ型補聴器を購入した。 その後、販売員から「耳垢があるようなので一度耳鼻咽喉科でそうじしてもらうように」と言われ、耳鼻咽喉科を受診した。耳の中には大きな耳垢があり、取ってもらったところ聞こえがよくなり、すでに契約した補聴器では合わないことが分かった。

【対応】耳鼻咽喉科医が補聴器店に連絡し、改めて補聴器の適合をやり直すように申し入れた。補聴器を購入する前に、まず耳鼻咽喉科で診察を受けることが大切です。

<事例2>

年齢とともに聞こえが悪くなってきたため、息子が補聴器をプレゼントしてくれた。実際につけてみると、音が響くなど不快な状況だったため、使わなくなった。

【解説】補聴器をつける前に、なぜ聞こえにくいのか耳鼻咽喉科で原因を調べてもらうことが必要です。治療が必要な病気があることも少なくありません。また補聴器を使用するには、フィッテイングといって専門の技能士による調整が大切で、それなくして快適な聞こえを得ることはできません。

<事例3>

4-5年前に、高額な補聴器を購入した。聞こえが悪くなったため同店を訪れたところ、「聞こえが落ちており、補聴器が合わなくなっているため新しい補聴器を購入するように」と言われ、困って耳鼻咽喉科を受診した。

【対応】耳鼻咽喉科で補聴器を調べてみると全く音が出ていない。他の認定補聴器店に紹介してもらい、修理・再調整し使えるようになった。

【解説】最初に販売した店が、補聴器が故障していることを説明せず、また修理することもなく新たに高額な補聴器の購入をすすめたという大きな問題があった。

補聴器相談医制度の発足

具体例で示したように、補聴器の取り扱いにおいて、以前から様々な問題がありました。日本耳鼻咽喉科学会ではこの状況に対応するため、平成17年に『補聴器相談医制度』を発足させました。この制度は、日本耳鼻咽喉科学会の専門医が講習会受講・実習を経て資格を取得し、補聴器店と協力して適切な補聴器対応を行うことを目的としたものです。補聴器相談医は、耳の診察・治療、認定補聴器店への紹介・補聴器装用後の聴覚管理や補聴器店への指導などに携わっています。

なお令和2年6月時点、兵庫県では約260名と多くの耳鼻咽喉科医が補聴器相談医に認定されています。聞こえに問題がある場合、補聴器を検討されている場合には、最寄りの耳鼻咽喉科でお尋ねください。

難聴に対する耳鼻咽喉科の役割

聞こえにくいと感じたら、まず耳鼻咽喉科の診察を受け、どういう理由で聞こえにくくなっているのか調べてもらうことが必要です。治療によって改善できるのか、治療での聞こえの改善は望めないため補聴器装用が必要なのか見極めが大切です。

治療対象になるのは、耳垢栓塞・中耳炎・突発性難聴などが挙げられます。

しかし、高齢の方では「年齢によるもの」と思い込みがちで、治療すれば聞こえがよくなるにもかかわらず放置されている場合も少なくありません。

その上で、治療による改善の見込めない難聴では、その程度により補聴器の使用をお勧めすることになります。補聴器をつけると難聴が進むのではないか、雑音がうるさい、値段が高いので購入できない等、疑問に思っている方も多いと思われます。補聴器相談医は、補聴器の有用性や限界などについて説明し、患者さんや家族からの疑問にお答えし、必要と判断されれば認定補聴器店を紹介します。

補聴器販売店側の対応

先進諸外国では、補聴器専門の販売店による補聴器販売が主体であるのと比べ、日本ではメガネ店や通信販売による販売が多いのが特徴です。耳疾患があるにもかかわらず診療を勧めることなく補聴器を作成したり、不必要に高額な補聴器の販売を行なったり、販売後のメインテナンスを適切に行えないなどの事例も散見されます。このような状況を改善するために平成5年より認定補聴器技能者試験が行われ、国も認定補聴器専門店による適切な販売を求めていますが、まだ充分とは言えない状況です。

国民センターにはこのように多くの相談や苦情が寄せられており、今後さらに補聴器相談医と認定補聴器店が協力して対応していかなければなりません。

補聴器の医療費控除について

平成30年度から、補聴器購入費用について医療費控除が受けられるようになりました。これは補聴器相談医に認定された耳鼻咽喉科を受診し、『補聴器適合に関する診療情報提供書』を記載してもらうことで可能となります。補聴器購入において経済的な負担軽減につながるものですので、是非耳鼻咽喉科でお尋ねください。